制作ノート

ヘラクレスの新たな神話物語の創造!

レニー・ハーリン監督のギリシア神話に対する好奇心や情熱は、この心血を注いだプロジェクトの原動力になった。監督は徹底的なリサーチをしながら、少年時代のビジョンを組み込んだ空想の世界と自分が大好きな映画や文学作品の様々な要素を融合させて視覚的な叙事詩を創造しようとした。それは、“信じられないほど充実に満ちた経験”だった。
オリンポスの神ゼウスと人間の女性との間に生まれた半神半人のヘラクレスの物語は、脚本を担当したショーン・フッドとダニエル・ジアトを魅了した。「これは運命を悟った自由のための葛藤、そして人間としての責任とそれぞれの欲望の葛藤を描いた古典的な物語だよ」とジアトは言う。「ヘラクレスに課せられた、“民と故郷の救世主”という予言は、彼が想う女性への愛よりも重要なことなのか? または、“救世主”と“愛”で人生を満たすことができるのか? これらの疑問がこの物語の大きなテーマです」

レニー・ハーリンの情熱は、ジアトの想像力を更にあおった。「レニーの熱心さが我々にも伝染した」とジアトは言う。「レニーは私が提案する新アイデアに心から夢中になってくれた。それは私自身の創造性を解放するという、ある意味、滅多に経験できないことでもあったんだ」
監督はリサーチを進める中で、ヘラクレスの物語が現代の多くのスーパーヒーローの原点で、究極のスーパーヒーローであることに興味を持った。でも監督は、長年語られてきた同じ神話を単に焼き直す代わりに、ヘラクレスという男に焦点を当てることで、神話とは逆の視点で描き出したいと考えた。「ヘラクレスが、自身と向き合い苦悩する一人の若者として観客に見せたかった」と監督は言う。「だからこの作品の核心には、ヘラクレスが人間臭く、様々な感情を見せるラブストーリーを盛り込んだんだよ」

かつてヒロイック・ファンタジー『コナン・ザ・バーバリアン』(11)を手掛けたことがあるフッドは言う。「ヘラクレスの新しい始まりを創作しながら……できるだけ、私にひらめきを与えてくれた古代の物語が持つ激しさや贖罪の双方をうまく生かしたいと思っていたんだ。それを突き詰めると、より大きな責任と、逃れることのできない運命を受け入れるために、自身の個と自分勝手な欲望を捨て去らねばならない男の物語になるんだ」

そして、フッドは敵役から書きはじめた。「ヘラクレスの義父を、冷酷でサディスティックで嫉妬深い暴君にしたんだ。そして、もしこの暴君が妻の不貞を疑い、ヘラクレスが実の息子ではないのでは? と思った時、どんな行動をとるかを考えてみた。そうなると最初に無慈悲で疑り深い父親と秘密を抱える母親、対立しあう兄弟、そして恋人と引き離されて追放されるヒーローという流れになってくる。この設定はギリシア悲劇と崩壊している家族のドラマを融合させたものだよ」

神・英雄・人間を演じる、期待の若手俳優

ヘラクレス役は、これまで多くの俳優が演じているが、レニー・ハーリン監督は、本当の意味で、ヘラクレスを理解し自分のものにできる新鮮なニューフェイスを求めていた。「私たちは過去の実績にはこだわらず、期待できる、才能ある若手俳優を本気で求めていたんだ」

そしてヘラクレス役に大抜擢されたのが、ケラン・ラッツだった。農場育ちで想像力豊かな子供の頃から、ヘラクレス役への想いは強かった。「ヘラクレスは僕の憧れだよ。農場で育った子供が、いつも“演じてみたい”と夢見ていたキャラクターさ」とラッツは言う。「脚本を手にした時点で僕は監督に会いたいと思い、しつこいくらいに、この役が自分にとってどれほど意味のあるものか、どれほど演じたいかをアピールしたよ。だからこそオーディションの時に、監督も僕の中に何かを感じ取ってくれたと思う。そして子供の頃からの夢をかなえた今の僕があるんだ」

有名なヘラクレス役を手にしたラッツはすぐに神話世界の衣装を身に着けてセットを歩いてみた。「撮影用スタジオに入って、古代ギリシアの素晴らしい衣装をつけた俳優たちが、まるで当時の人々のように自然に演じている」とラッツは語る。「最高の人たちと仕事ができたことは、俳優としてこれまでで最高の経験だったね。レニーはこの巨大な船の艦長で、撮影に際しては、自信に満ちた様子だった。思いやりや愛に溢れるほど寛容な心を持ち、チーム全員に尊敬の念を持って製作しているね。すると誰もが本作に関わることができて、どれほど感謝しているかを監督に示したいという気持ちになるんだよ」

ラッツ扮するヘラクレス役にピッタリの女優を見つけることも、ハーリンにとっては重要なことだった。「それぞれの役に完璧にマッチする俳優を見つけるだけではダメなんだ。その俳優同士の相性というものがあるからね」とハーリンは言う。「今回は主演の2人の相性だけでなく、出演者全員の相性がよかったことは、幸運だったね」

ラッツは言う。「ヘラクレスとガイア・ワイスが演じるヘベ姫の関係がすごく気に入っているんだ。この映画は戦闘とアクションのシーンが連続するけど、と同時にラブロマンスの要素もあるからね。この2人の感情の揺れに真実味がある。姫と半神半人という境遇を超えて愛し合う2人の若者の生き生きした姿を見てもらえると思う」

古代ギリシアはブルガリアで再創造!

レニー・ハーリン監督は、興味深いキャラクターと、ヘラクレスの代名詞でもある冒険的な要素に満ちたスリリングなアクションとのバランスが必要だと考えていた。「私たちは、非常にタフで荒々しいアクション面を描きつつ、ロマンティックで美しい詩的な部分も表現しようと、個々のキャラクターに関する美しいシーンを盛り込んだ。54日間に渡るブルガリアでの撮影によって、この両面が完璧に描かれ、独自の世界観が構築されたんだ」

ハーリン監督は、ブルガリアで壮大な戦闘シーンの撮影地として、巨大な洞窟をはじめ数ヵ所のロケ地を探し出した。「洞窟の中でこれほど壮大な戦闘シーンが描かれた作品は、おそらくなかったと思う」とハーリンは豪語し、「とても巨大な洞窟で、戦闘シーンの撮影では、その中に数千人も入れて撮影したんだ」と言う。撮影スタッフのほとんどがブルガリア人で、主要スタッフの数人だけはヨーロッパ諸国やアメリカから招聘した。 『ザ・ヘラクレス』は、ハーリン監督初の3D作品になる。だが監督は、最初3Dで撮ることに消極的だった。それにより製作が遅れ、日々の決断に影響が出ると考えたからだ。その後、監督がこの作品で描きたい世界観にはむしろ3Dが効果的であることに気づいた。そして、後付け3D作品ではなく、最初から全シーンを3Dで撮影した。「撮影するにあたり、セットから衣装、武器、ヘア・メイクに至るまで3D用に準備する必要があった」と監督は言う。「成功させるには、それらを考慮にいれ、入念に準備する必要があった。その結果、本作はとても豪華でリアルな映像となり、観客がまるでそこにいるように感じてもらえると思う」

3Dになって最も苦労したのは、美術デザインのルカ・トランチーノかもしれない。彼は、3D効果を発揮させるために、シーンごとに、より遠近感が感じられるような重層的なセットを作ることになったからだ。